第08回 綿にはどんな特徴があるの?
私たちが普段身に着けている衣類の中で最も親しまれている素材と言えば、まず「綿」(めん)を思い浮かべることでしょう。
綿は、身体に直接触れるインナー(肌着)から、シャツ・ブラウス・ジャケット・デニム・ジーンズ・スカートなど、衣類に幅広く使われています。今回は、そんな幅広い用途を誇る綿についてご紹介していきたいと思います。
綿花からどのように綿ができるのか
綿(木綿・コットン)は、綿花(ワタの花)という植物から生み出されます。繊維としての綿は、綿花の種の周りに毛状にびっしりと生えていて、花が散るとコットンボールと呼ばれる実を結びます。綿はこのコットンボールの中で成長し、やがてそのコットンボールが開くとそれらがむき出しになり、太陽光で乾燥されます。
余談ですが、綿繊維に被われている種子からは綿実油と呼ばれる油脂が採れ、食料として出回っています。
綿繊維の構造とその特徴とは
綿はセルロースと呼ばれる物質が主成分で、表面には脂質の一種であるロウ(蝋)質でコーティングされています。セルロースは、ブドウ糖や砂糖の主成分であるショ糖などの糖類が鎖状につながっている物質です。この仲間としてデンプンが挙げられますが、セルロースはデンプンよりも分解されにくい分子構造となっています。
他方綿には、ミクロ・フィブリンと呼ばれる物質が螺旋状に並んでいるためねじれがあり、繊維の内側は空洞になっています。そのため断面は円形ではなく、ところどころで偏平になっています。
このような繊維構造のため、加工がしやすく、かつ衣類の素材として最適ともいえる特徴をつくりだしています。主だった特徴には以下の通りです。
- 天然のねじれがあり、繊維同士と絡まりやすく、糸にしやすい。
- 肌触りが良く、吸湿性に優れている。
- 軽量ながら保温性に優れている。
- 薬品に強い(特にアルカリ)。
綿繊維に施されるさまざまな加工
綿はその一方で、曲げるとなかなかまっすぐにならず、シワになりやすい欠点もあります。そのため、硫黄分が含まれる薬品などでシワになりにくくする防シワ加工(イージーケア加工)が施されることもあります。
また、アルカリの液体に浸すことでより光沢のある繊維にすることもでき、これを「マーセライズ」または「シルケット加工」と呼びます。
この他、余分な毛羽立ちをガスバーナーで焼いたり、微生物によって分解させたりして光沢を出す方法もあります。
世界各地で栽培される綿花とその種類
綿花は、アメリカや中国・メキシコ・ブラジル・インド・エジプト・パキスタンなど、世界の広い範囲で栽培されています。
綿花は産地によって栽培される品種が異なり、そのため繊維の長さも品種によって多岐にわたっています。
繊維の短い品種は主として太い糸か布団などの中綿などに使われるのに対して、繊維の長い品種は主として細い糸に使われ、高級品とされます。詳しくは後の回に委ねますが、糸にする際に繊維を多く寄せ合わせる必要もなく、細くて十分な強さの糸ができる反面、技術的に難易度が高いためです。ちなみに、カリブ海周辺の西インド諸島で生産される海島綿(シーアイランド綿)や、ペルーが原産のピマ種よりも繊維が長いスーピマ綿(主にアメリカなどで生産)は特に繊維が長く、最高級品とされています。
綿で作られる糸の太さは、番手という単位で表されます。こちらも詳細は後の回に委ねますが、これは一定の重さに対して太さがどれだけかを示すもので、その数値が大きいほど細く高級な糸となります。
天然素材としての綿の現状とは
日本でも、綿花は戦国時代から昭和初期にかけて盛んに栽培されていましたが、現在はそのほとんどを輸入に依存しています。そればかりか、合成繊維の台頭や衣料品の輸入急増などで、最近では綿そのものの輸入も激減している状況です。
そんな中、近年は地球環境に配慮して、農薬を使わずに有機栽培で育てられた綿花を用いて、衣料品になるまでのプロセスで極力化学的処理を行わない「オーガニックコットン」なる綿製品も出回りつつあります。